プロフィール
名前:ふかわりょう
別名義:ROCKETMAN・ryo fukawa(音楽活動時)
所属事務所:ワタナベエンターテインメント
名前:トミタ栞
所属事務所:ソニーミュージックアーティスツ
TikTokで話題
7月1日、ROCKETMANが『どうにかなりそう feat. トミタ栞』を配信リリースした。
この『どうにかなりそう』は、2014年にryo fukawa名義のボカロ曲として発表したものがオリジナルで、その後2017年にROCKETMAN名義で発表したリミックスverが存在する。そして、トミタ栞をボーカルに向かえ新たに2020verを発表した。
4月からトミタ栞がこの楽曲に合わせ踊る動画をTwitterやInstagramなどのSNSに次々と投稿し始めた。その中でも、特に話題となったのがTikTokだった。
元々の楽曲の持つキャッチーなサビと中毒性の高い電子音、ふかわりょうと同じくワタナベエンターテインメント所属のウラシマンタロウが考案した真似したくなる振り付けが特に若い世代に刺さり、7月27日現在で3万もの動画で使用されている。最近では、「あざとくて何が悪いの?」(テレビ朝日系)で弘中綾香アナウンサーと田中みな実がこの楽曲を踊り話題となった。
TikTokで再生されるのはサビの最後の「♪どうにかなりそう」という部分だけになっている。しかし、この曲でぜひ注目してほしいのはこの直前のサビの歌詞だ。
今回はサビの「♪どうにかなりそう」以外の歌詞に注目しながら、TikTokで話題になった本当の理由、そして本来の『どうにかなりそう』という曲に込められた意味を考察していく。
サビに溢れる変態性
TikTokではサビの「♪どうにかなりそう」だけを切り取って使用しているため、聴く人が聴けば
「や、やめてくれ~」
となるかもしれない。というよりも実際に「こっちがどうにかなりそうだよ」というコメントも多く見受けられた。
そもそも、この曲がどういった曲なのかを知っている人は少ない。
この曲は意外にも【恋】がテーマになっている。
愛のない世界に愛想尽きて
邪魔な言葉の相手してる
一人で生きてく勇気もなく
流行りの音楽じゃ満たされない
1番
この歌詞だけでも非常に文学性が高い。
恋を抱いた衝動を難しい言葉を使わず、誰もが分かる言葉を言い回しだけで特別なものだと感じさせる。人生に必要な刺激であり時にめんどくさい「恋愛」を綺麗に表現している。
露骨な行動に振り回され
大人の対応になってない
盗んだバイクじゃあるまいし
小さなベッドは軋まない
続いて2番
「盗んだバイク」「ベッド 軋む」と尾崎豊のオマージュも取り入れつつ、好きなのに相手にされていない様子が描かれている。
眩しい光に包まれて
気だるい朝を迎えたい
やりきれないことは後回し
自分らしさを見失ってる
最後に3番
ここで注目したいのは「迎えたい」の「たい」の部分。
2番の歌詞でもチラついていたが、やはり相手にされていないことが分かる。
もしここが「迎えてる」の場合であれば、「気だるい朝を迎える」つまり昨晩求めあった後の凡庸なカップルが描かれることとなり、そこで完結してしまう。
ここで、あえて「たい」と"願望"の意味にすることで、「相手にされていない」と同時に「恋心が積もっている」という2つの情報が汲み取れる。たった2文字から両者の行動・心理が読み取れ、余白まで生み出すのだ。
サビ以外でもこの『どうにかなりそう』という曲の奥深さが感じられる。
では本題に入る。
この歌詞を受けて1~3番のサビはどうなってるのか?
1番サビ
いつでもあなたに会いたくて
会いたくて どうにかなりそう
2番サビ
いつでもあなたが好きすぎて
好きすぎて どうにかなりそう
3番サビ
いつでもあなたと逝きたくて
逝きたくて どうにかなりそう
この「どうにかなりそう」の前の5文字に注目してほしい。
まず始めに「会いたくて」は1番の歌詞にもあったように”恋の芽生え”がストレートに表現されている。出会いたて、付き合い立てはこんな感じだろう。
次に2番の歌詞では、振り回されているのにも関わらず「好きすぎて」と愛情が増しているように感じられる。
最後に至っては「逝きたくて」。初めて歌詞を見ずに聴いたときは「"生"きたくて」とポジティブな文面だと思っていた。しかし、歌詞にはあえてネガティブに捉えられる「逝きたくて」を使っている。
3番の歌詞から感じられる”性”の匂いは、生き死にの”生”と直結しているもので、あえてここでネガティブに捉えられる「逝きたくて」を使っているのは、”生”を感じさせることでより深く"性"を感じさせるためであると解釈できる。
「会いたくて」
「好きすぎて」
「逝きたくて」
このたった5文字の違いで恋の加速や衝動、さらにはストーリー性まで考えられる。
そしてトドメを刺すのが
「♪どうにかなりそ~う」
このフレーズだ。
『どうにかなりそう』に込められた2種類の意味
「どうにかなりそう」という言葉自体に含まれる意味は2つある。
1つは【頭がおかしくなりそう・錯乱状態になりそう】というネガティブな意味。
もう1つは【状況を切り抜けられそう・なんとかなりそう】というポジティブな意味。
この相反する2つの意味が「どうにかなりそう」に含まれているのだ。
今回の『どうにかなりそう』の歌詞が非常によく出来ているのは、サビの「どうにかなりそう」がどちらの意味でも使えるところにある。
例えば1番の「会いたくて」では、「このままいい関係になれるのでは?」と捉えることもできれば、極端に言えばいきなり「ストーカーになってしまいそう」と捉えることもできる。
特に3番の「逝きたくて どうにかなりそう」に関してはもう完全に頭がおかしくなっているのだが、その変態性のある「狂おしいほど好き」にも人間らしさが溢れている。
曲中で使われている「どうにかなりそう」はどちらの意味で捉えても「好き」を言い換えたポジティブな言い回しになっているのだ。
新たに加わった意味
今回、TikTokでバズったのはこの曲を歌っているトミタ栞の影響が大きい。
4月16日からかなりの更新頻度で『どうにかなりそう』の動画を投稿している。しかも、他の楽曲は一切使わず『どうにかなりそう』だけ。
一部のファンや視聴者からは疑問の声や悪口がコメント欄に書き込まれていた。
そんな中、7月3日TikTokを始めSNSにこんな動画をアップした。
紙めくるの難しくて#どうにかなりそう pic.twitter.com/dEb4R9AxuN
— トミタ栞 (@tomita4ori) 2020年7月3日
コロナ禍の中、
「どうにかなりそう」という
2つの意味を持つ
この言葉に、私自身も
支えられました
この楽曲を発信し続けたのは、コロナの影響で普段の生活が送れない方々への
「どうにかなりそう」=「この状況を切り抜けてほしい」
という願いだったのだ。
もちろん、この楽曲が発表されたのは2014年で、今の生活がこんなことになるのは予想だにしていなかっただろう。
ただ、時代がこの曲に新たな意味、新たな存在価値を見出したのだ。
「どうにかなりそう」
この言葉は、「おかしくなりそう」な錯乱寸前とも捉えられるし、なんとか「切り抜けられそう」という前向きなニュアンスも含まれます。その時の気分によって聞こえ方が変わるのですが、特に未曾有の事態においては、「どうにかなりそう」な人が多かったのでしょう。
この曲自体は2014年にオリジナルを発表し、17年にリミックス。そしてトミタ栞さんをボーカルに迎えた2020年バージョン。品種改良を重ねた結果、ようやく世の中と足並みが揃ったということでしょうか。明日にでも配信したいという気持ちを抑え、これまでお付き合いのある業者さんから、然るべき手順を踏んで、配信することになりました。
TikTokで話題になったのは、序盤で言った
・キャッチーなサビ
・中毒性の高い電子音
・真似したくなる振り付け
もあるが、元々の歌詞の意味と時代が加えた新たな意味が合致した結果だと思う。
ROCKETMANが2020verを作ったのも、トミタ栞が投稿し続けたのも、こういう状況だったからこそのことだろう。
音楽の力のおかげで、”どうにかなりそう”だ。
(文:つちへん)
追記:2020年11月17日
12020年にTikTokで流行したワード「#TikTok流行語大賞2020」のノミネート30選に、本記事で紹介した『どうにかなりそう feat. トミタ栞』がきっかけのハッシュタグ『#どうにかなりそう』がノミネートされました。
おめでとうございます!
この記事がきっかけで興味を持った、好きになった人がいれば嬉しいです。
(記事内での歌詞の引用)
曲名:どうにかなりそう
作詞・作曲:RYO FUKAWA